夏枝は、泣きはらした目を冷たい水でいく度も冷やした。しびれるような冷たい水が、夏枝の心をも冷たくさせていくようであった。 目を冷すと夏枝は、鏡台の前に静かに座った。結婚以来この鏡に夏枝は、自分の姿を映してきた。(まさか、こんな思いで、鏡の中の自分を見る日が来るとは夢にも思わなかった) 自分でもひやりとするような、底光りのする目が、じっと自分自身をみつめていた。 夏枝は、その目をのぞきこむようにして、いつもより念入りに化粧をはじめた。(陽子をこれ以上育てていくということはできない。といってあんなにかわいがっていたものを、急に手放したならば、世間の人々は不審に思うだろう)(世間の人はとにかく徹が承知しないだろう。もし陽子が本当の妹ではないと知ったなら、徹は一体どうするだろうか) 夏枝は、先ほどからいく度も同じことを繰り返し思っていた。 鏡の中の自分を見すえるようにしながら、夏枝は上まぶたに、紅をはいた。泣いた感じが失せた。(陽子の出生を知って、泣いたことを夫には絶対にさとられたくない) 夏枝は眉を心もち長くひき、口べにもいつもよりていねいに塗った。(辻口は、事の真実を知った日の、わたくしの悲しみ悩む姿を見たかったのだ。絶対にとり乱した姿を見せてはならない) 化粧をすると、心が落ちついた。化粧は女の武器かも知れないと夏枝は思った。(辻口は村井とのことを許さず、佐石の子を育てさせた。わたしもまた、決してその辻口を許しはしない) 村井との間を、誤解して苦しむのなら、誤解させておこうと夏枝は思った。 そして、陽子を少なくとも啓造の前では、今まで以上に愛しているように見せようとも考えた。「そして、いつか身も心も辻口をうらぎってみせるのだわ」 夏枝は鏡の中の自分に誓うように、声を出して大胆につぶやいた。口に出すと、その言葉には妙に力がこもっていて、いつかきっと、自分は啓造をうらぎるにちがいないと思わずにはいられなかった,ルイヴィトンモノグラム 長財布。 ふいに村井靖夫の淋しいような、ニヒルな表情が思い出された。それは思いがけないほどのなつかしさであった,chloe 財布 2013。(七年も会っていない) 村井の広いひたいも、長い指も、少し前かがみの長身も、何もかもがなつかしかった。 なぜ七年もの間、忘れたように過ごしてきたかが、ふしぎなくらいなつかしかった。(陽子を育てていたからだわ。ルリ子の身代わりと思って必死になって育てていたからだわ) それが佐石の娘だったのだと夏枝は、胸がたぎった。「ただいまあ」 明るい陽子の声がした。 いつもと変わらぬ陽子の声だった。夏枝は息をつめた。今考えていた村井のことなど、みじんも心にはなかった。のどがひからびた。つばをのみこもうとした。しかしつばも出なかった。夏枝は化石のように、身うごきもしなかった。 ふすまがあいた。ランドセルを背負った陽子の笑顔が鏡にうつった。「まあきれい。どこに行くの? おかあさん」 陽子は走りよって夏枝の肩に手をかけた。陽子は、夏枝にほおをよせて、鏡にうつる夏枝に笑いかけた。(陽子だわ。昨日までと同じ陽子だわ) 夏枝は、まじまじと鏡の中の陽子をみつめた。陽子は、いつもとちがう夏枝のようすに気づいて、夏枝の顔をのぞきこんだ。「病気なの? おかあさん」(この子の親が、ルリ子を殺した?) その実感が湧かなかった。啓造の手紙を読んだことが、夢ではなかったかと思われた。「どうしたの? 病気ね。きっと」 そういって真実心配そうに夏枝を見上げる陽子の手をとって夏枝はいった。「陽子ちゃん!」 夏枝の声がかすれた。夏枝は陽子のほおを両手にはさんで、その顔をのぞきこんだ。形のいい濃い眉。たえず何かがきらめくような黒い瞳,オメガ シーマスター。ややうすい形のよい唇。(この子の中に恐ろしい血が流れているというのか)「どうしたの? おかあさん」 夏枝のようすは、陽子にも異様に感じられた。陽子は首を少しかたむけて、「あそびに行ってもいい?」 と立ち上がりかけた。 その時である,aokley サングラス 通販。どうしてそんな気持ちになったのか、夏枝自身にもわからない。にわかにぐっと高まる感情が夏枝の両手に集まった。「陽子ちゃん! おかあさんと死んで……」 言葉の終わらぬうちに、夏枝の手が陽子の首にかかった。「いや、いや」 陽子がもがいて声をあげた。 陽子の目に恐怖のいろが走るのを、夏枝は見た。「いや、いや」 陽子がふたたび声をあげた。「死ぬのよ。二人で……」 二人が死んでいるのを見て、ろうばいする啓造の顔が目にうかんだ。 夏枝は、何かにつかれているようであった。ふしぎな恍惚とした思いで、夏枝は次第に手に力をこめていった。 啓造の驚愕した顔。呆然と立っている顔。そして、泣いている徹。「ああっ!」 思わず夏枝は手を放した。 陽子は口から、泡をふいていた。そして息を引くように、くくっとのどを鳴らしたかと思うと、ワッと泣きだした。「ああ、陽子ちゃん」 夏枝は思わず陽子をだきしめた。陽子も夏枝にしがみついて泣いた。(何の罪もない子に、一体わたしは何をしようとしたのだろう) 夏枝は自分のしたことに気づくと、恐ろしさに体がふるえてならなかった。どんなことがあっても、自分の一生に人を殺そうとすることがあろうとは、夢にも思わなかった。 夏枝と陽子はだきあって泣いた。陽子はなかなか泣きやまなかった。ほとんど泣いたことのない陽子だった。それだけに、しゃくり上げては泣き、泣いてはしゃくりあげる陽子が、別人のように思えた。夏枝はあやまる言葉も、なぐさめる言葉もなかった。(陽子は、この日のことを決して忘れることができないだろう) 成人した陽子が、どんな思いで今日のこの事件を回想することかと思うと、夏枝はたまらなかった。 やがて、夏枝は昼食の支度に台所に立っていった,クロエ トートバッグ 新作。何か夢をみているようで、現実感が伴わなかった。足もとがふらふらとした。 食事の支度を終えて茶の間にもどると、陽子がのどに手をやって、ぼんやりとすわっていた。いいようもない淋しげな表情だった。夏枝は胸をつきあげる思いで、「陽子ちゃん、ごめんなさいね」 と手をとった。陽子は泣きはらした目で、まっすぐに夏枝を見かえした。「おかあさん。どうして怒ったの?」「怒ったんじゃないの,オメガ スピードマスター。きっとおかあさん、夢をみていたのよ」「起きていても夢をみるの?」 陽子の声には甘えがなかった。「あのね。おとなは眠らなくても、夢をみることがあるのよ」 夏枝はドギマギして答えた。「でも、夢のなかで、どうして陽子を殺そうとしたの?」「まあ! 殺そうなんて……」 たしかに陽子の首に手をかけたはずである。
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昨日までと同じ陽子だわ
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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