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  • Started 12 years ago by adrianycy

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    。新築の部屋で、二食ついて七千五百円は、とにかく安い。不幸中の幸いといわねばならなかった。 二十七歳で学生下宿とは厚かましいのだが、下宿のおかみには、〈一度、職についていたが、改めて大学院に入ろうとしている〉と、ことわってある。斡旋所の用紙をあっさり信用したおかみは、払うべきものさえ払っていれば、いまのところ、文句を言う気配はなさそうであった。 ともあれ、週に一度、失業保険金を受けとった日だけは、辰夫はやや自由な気分になる。 とりあえず、昭和館の前のドイツ料理屋で、アイスバインといわぬまでも、厚いハンバーグに目玉焼きをのせたやつを食べて、新宿日活で肩の凝りようもない二本立てを観《み》て、それからジャズ喫茶で時間をつぶすのが、いいのではないか。 駅前の時計を見ると、正午に近かった。ドイツ料理屋は満員にちがいない。彼は武蔵《むさし》野館《のかん》につづく道に入り、「ボン」でコーヒーを飲むことにした。もとの会社は四谷《よつや》にあったので、この辺りには馴《な》れている。「ボン」のドアを押すと、暖房がかなりきいていた。彼はダフルコートを脱ぎ、小さいテーブルを探した。店内はあいかわらず一杯で、売り出し中の喜劇役者や|孤高の《ヽヽヽ》作家、学生のカップルたちがコーヒーを啜《すす》っている。 彼は二階に上った。通りに面した、増築したらしい部分がわりに空《す》いていて、静かだった。会社にいたころは、よくこの片隅で打ち合せをしたものだ。(|もう《ヽヽ》、|そろそろ《ヽヽヽヽ》だな) 武蔵野館まえの人通りに視線を向けながら、そう呟いた。(保険金は、あと三週で終りだ。ひと月、ないわけだ) そのあとを考えるのが恐ろしかった。彼なりに求職の手は打ったのだが、香《かんば》しい反響はまだない。いずれにせよ、あと三週では、間に合うまい。(|そろそろ《ヽヽヽヽ》どころか、首にロープが巻きついて、秒読みに入っている……) わずかにあった貯金は底をつき、本棚《ほんだな》の本は大半消え失《う》せ、冷蔵庫と夏のスーツは質に入っている。(駈《か》けまわらなければいかんのだ。コーヒーを飲んだり、映画を観たりしている時ではない……) だが、どうしたら、いいのだ? もう、〈ふつうの勤め〉につくのは、耐えられない……少くとも、おれには無理だ……,coach 財布 アウトレット。 コーヒーがきた,chloe 財布 人気。厚手の、床に落したぐらいでは割れそうもないカップに、あまり濃くない、熱いコーヒーが入っている。彼は砂糖を入れずに、ミルクを多く入れた。実質的という感じのコーヒーであった,chloe 財布 2013。〈どうせ待ち合せかなにかのために飲まれるのだろうが、だからといって、手は抜かない〉といった気構えが感じられた。 ひとくち啜って、下宿で飲むインスタント・コーヒーのまずさを想い浮べた。会社にいたころ、チェース・マンハッタン銀行につとめる知人からよく貰《もら》ったマクスウエルのはまだしも、いま、彼が使っている国産のインスタント・コーヒーは、なんとも頂けないものだった,coach 財布 激安。 彼はハイライトの封を切り、袋のはしを破いて、一本抜きとった。(なにが〈|黄金の六〇年代《ゴールデン・シクステイーズ》〉だ……) けむりをゆっくり吐きながら、そう呟《つぶや》いた。 新聞や雑誌は、一九六〇年代を〈人類が空前の繁栄を謳歌《おうか》する黄金の時代〉という風に書き立てている。日本に限っても、高速道路や東海道新幹線なるものが計画されており、四年後には東京でオリンピックが開かれるという。 スポーツにまったく関心がない辰夫は、それがどうした、と反問したくなる。無事に開催されたとしても、それは政治家と一部スポーツ関係者の自己満足と売名とデモンストレーションのためであろう。新幹線は、車輛《しやりよう》の基礎研究は完成したものの、用地買収の六割が残っているということだ。 この国が、黄金色に輝くとは、とうてい思えなかった。戦争に負け、無条件降伏をして、わずか十五年で、そんな時代がくるはずがない。政府が国民に夢を持たせるための、きわめて大がかりな宣伝であろう。 百歩ゆずって、そういう時代がくるとしても、それは大企業のサラリーマンのためのもので、中小企業で働く者には関係があるまい、と、中小企業しか知らない辰夫は考える,クロエ 二つ折り財布。ましてや、失業保険の切れかかっている失業者にとっては、まったく、関係のない話だ。これから、どうやって食いつないでゆくか——それが、おれの問題なのだ,coach 財布 ピンク。 とりあえず、当てにしていることが二つあった。 一つは、あるテレビ局が募集しているスリラードラマの原作に応募したことだ。これは一位になると五万円、佳作でも二万円は貰えるはずだ。二万円といえば、大会社の初任給を上まわる額である。 もう一つは、ラジオ局につとめる友人が、夜遅いDJ番組の台本書きに推薦してやると言ったことである。ただし、調子の良い男の言うことだから、信用はできない。 よく考えてみれば、どちらも、雲をつかむような話である。辰夫の叔父のひとりは、よく、「おまえは虚業家だ」と、叱《しか》るともなく、辰夫に言った
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    Posted 12 years ago #

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