Year of Ansey December 1859 発行元は長崎下筑後町塩田幸八、年月日は「安政六己未《きび》年十二月」とある。井吹重平は自分のそこにきた目的を忘れて、むさぼるように和英両様の活字の詰まった版本の頁をめくった。 書かれている通り、四年前に、同じこの長崎で印刷、発行されながら、なかなか入手し難く、存在が知れ渡っているにもかかわらず、実際目にすることのできぬ、いわば幻の対話集であった。 阿蘭陀《オランダ》通詞として一等の地位にあり、また出島印刷所の監査官として知られている本木昌造の主編集とは知っていたが、「凡例」に記されている注意書きが井吹重平の目を奪う。「此《コノ》書ハ、英語ヲ習フ者ノ為《タメ》ニ著スニ非《アラ》ス、只和英両国ノ商売使用ノ為ニ編ム所ニシテ、英文モ、雅ヲ用ヒス、簡単ニシテ解シ易キヲ旨トス、其《ソノ》釈文ノ如キハ、俗中ノ俗ヲ採ル、是《コレ》我日用ノ俗語ヲシテ解シ易カラシメンカ為ナリ、其仮名付ノ若干ニ至テハ、実ニ笑ニ堪ヘ難キモノアリ、仮令《タトヘ》ハ、私ハト書クヘキヲ、私ワトスルカ如シ、是専ラ彼商売ノ為ニ設ル所ニシテ、我邦俗ノ為ニスルニ非ス」「これは願ってもなか本の手に入った,クロエ トートバッグ 新作。礼ばいうぞ」「そんげんよろこんで貰えば、甲斐《かい》のあったとですたい。……まあお茶でも飲みなはらんですか」「おおきに。……いやこれはよかぞ。言葉の通じらん時は、これこれだというて、和文の方を指差せばよか。ちゃんとそうなっとる。これさえあればどがん入り組んだ話も通じるたい。評判通りのものやったな、こりゃ……」「あたしもこいば見た時、溜息《ためいき》のでるごたったですよ,OAKLEY サングラス 店舗。井吹さんのよろこびなさる顔がすうっと目の前に浮かびよりました」「上手なこというて。……まあよか,coach 財布 新作。今夜は祝い酒と行こう。ぬしの飲みたかしこご馳走するたい」「大分もう入っとるとじゃなかですか」「なんの、まだいくらも入っとらんとよ。……ごてさんをちょっと借りますばい」 彼は茶を運んできた妻女に声をかけた。「しょっちゅうお世話になって」「そいじゃ行こか。今夜はほかにちょっと頼みたかこともあっと」「話ですか、改まって……」「まあ、あとの話たい。この本は預かっといて貰わんといかんな」「よかとですよ。持って行きなはっても」「汚れでもしたら、それこそ大事になるけんね」「そんげんこつなら預かっときまっしょ」「金は明日にでも届ける。吹っかけてもよかぞ、今持っとるけんな」「これじゃけん、何もいわれんと……」 そういい残して左内は着替えるために女房ともども奥に去った。井吹重平は対話集の凡例をふたたび繰った。「仮名付ノ中、ーアルハ、呼音ヲ永ク引ク徴《シルシ》トス、仮令ハ、正ノ字ニ、ショート附ルカ如シ」、「片倚《ヨ》リタルモノハ、呼音ヲ縮テ言フ徴ト知ルヘシ、仮令ハ、貫ノ字ニ、クワント附ルカ如シ」、「・ハ弱クシテ、有カ如ク無カ如シ、▲ハ強ク高ク高調ニ言フ徴トス、此余ノ口調ニ至テハ、紙上ニ述難シ、因《ヨリ》テ之《コレ》ヲ除ク」 この他、同じ本木昌造編集出島印刷所版のもので、『蕃語《ばんご》小引』と題する本が発行されているらしいが、恐らく似たりよったりのものであろう。ようし、これさえあれば、と彼は閉じた対話集の表紙をなでた。 待たせてしもうて、といいながらでてきた左内と連れだって、井吹重平は外の空気に触れると、両腕を思い切り天に伸ばした。「よっぽどうれしかことのあるとですな」「うれしかとは、今の本たい」彼はいった,ルイヴィトン モノグラム 財布。「そいでも、えろう張り切っとるごと見ゆるですばい。本も本でっしょが、ほかにも何かあるとじゃなかですか。さっきも何かいいかけなさったとでしょうが」「さて、何処にしけこむか」「勿体《もつたい》ぶらんと、いわんですか。あたしにできるこつなら、どんげん頼みでも引き受けますばい」「そんげん難しか話じゃなかと」井吹重平は顔をなでた。「ありゃ正月頃じゃったかな、ぬしの店で会うた娘がおったろう,oakley サングラス 激安。ほら、おいに世話する気はないかとききよったじゃなかか。……」「ああ、あいの子のきわ。あの娘ばどんげんしなさったとね」「思いだしたとたい、ふっと。ありゃまだそのまんまになっとるとね」「たまげたね、こりゃ。何ばいいださすかと思うとったら。……」 擦れ違う者の挨拶があって、左内の言葉は跡切れた。二人は東浜町へ折れる狭い川岸を歩いていたが、夜更けとも思えぬ位、明かりの濃い家々であった。「あたしゃまた、何処かの太夫《たゆう》でも呼び出してくれんかと、いわるっと思うとったですよ。……なしてまた今頃、物好きのごたるこつを思いだしなはったとね」「確か、唐人の間にできた娘やったな」「そうですたい。あん時ああたは、にべもなかごつ断わりなはったとですよ。自分の趣味にはあわんちゅうて」「そうやったかね」井吹重平はいった。「なんで今頃気になったとか、おいにもわからん」「あん娘でよかとなら今からでも会えますばい。丸山で働きよりますけんね」「年季ば入れたとか」「年季じゃありまっせんと。土台体の弱かとですけん、じょろし(女郎衆)にはむかんとですよ。居酒屋の下働きですたい」「そりゃよかった。よし、そこに行くか」「そいでも下働きですけんね」「かまわんじゃろう,chloe 財布 2013。主人に頼めば娘の顔も少しはひろうなる。なんちゅう店ね、そこは」「いうときますばってん、子供の時分から血の気のなかごとしとっとですよ」「わるか病気さえ持っとらんなら、そいでもよかたい。つまらんとなら、また席を変えればよか。どっちみち朝までのつもりで覚悟してきんしゃい」 暗がりの中の肩が離れるのを遠目に見ながら井吹重平はいう。
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