昔、海方はその道の名人と仲良くなって、秘伝を会得《えとく》したのだそうだ。その名人は南京錠《なんきんじよう》専門だったが、海方はドアの鍵でも開けられるようになった。どんな高級マンションの鍵でも、シリンダー錠の原理は南京錠と同じだという。「だからと言って、ぼんやりしていたわけじゃねえで。その患者の名は判った。二○二号室にゃ、ときどき豪勢な花束が届く。花束は例によって、マドンナが二○二号に運び込むんだが、あるとき、花束を届けに来た花屋に声を掛けて、そっと訊き出したんだ。それで、名が知れた。美島百合子《みしまゆりこ》だという。美しい島に草花の百合だ」「花束の依頼主は?」「それがまた怪しい。花屋に注文するのはいつも電話で、女の声だそうだ。精神科のナースステーションに行くと、マドンナが花を受け取り、封筒に入った金を渡してくれる。最初からそういう手続きで、花が送られて来るんだ」「留美子はその相手を知っているんでしょうかね」「さあ、どうかの。全く知らない場合も考えられるな」「怪しいですね」「うん、怪しい」「それと、海方さんが変な物を飲まされたことと、何か関係があるんですか」「それだ」 海方は重重しく言った。「俺に妙な物を飲ませた奴は、二○二号室にいる、美島百合子という女としか思えねえんだ……俺が特犯に電話をしたのが一昨日《おととい》で、その前の夜、六月六日のことだ,coach 財布 ピンク。あの夜はちょうど満月でな」 その夜、海方は仲間を集めて二○一号の特別室に忍び込んで、袁彦道《えんげんどう》を極めていた、という。「早い話が、賽《さい》ころ二つと湯呑み一つでやる、あれさ」「丁半《ちようはん》をやってたんですか」 と、進介が呆《あき》れて訊いた,ルイヴィトン 財布 モノグラム 二つ折り。「なに、丁半などという正道なものじゃねえ」「……丁半に正道も邪道もあるんですか」「その通り。正道な丁半は盆茣蓙《ぼんござ》があって、中央に壺振《つぼふ》り、相対して中盆という者がいる,オメガ 腕時計 メンズ。壺は籐《とう》で編んだ笊《ざる》で底に綿を置くのが定法《じようほう》、壺蒲団《ふとん》の上で扱い、賽は一天地六南三北四東五西二を法とする。なかなかやかましいものでな,オメガ シーマスターアクアテラ。俺たちのはそんな几帳面《きちようめん》なものじゃなく、仲間が代る代る壺を振る。壺は湯呑みの内側に半紙を貼った奴を使う。緞帳《どんちよう》丁半、一名鉄火場てえ奴だ。楽しいことは病気も忘れる。ま、治療法の一つだな」 それなら、袁彦道を極めるなどという大層な言い方はおかしいが、海方の矛盾は日常のことだ。 最初、海方に話を持ち掛けて来たのが楽だった。楽は何人かに宇宙法則の数式を売り、総裁が発行する金を何億と持っていて、使い道に困っていたのだ。総裁が発行する紙幣は乱発気味で第二病棟はインフレ状態になっていた。 夕食後、食堂の隅で二人がこそこそ賽を振っていると、栄養主任の福岡が珍しそうに見ていて、昔を思い出したから仲間に加わりたいと言った。そのうち、ナイトホスピタルの双橋も興味を示し、四人ともなると人目に立つ。空いている広い二○一号で落ち合おうという相談がまとまった。こういう相談はすぐまとまるものらしい,coach 財布 人気。 病院が消灯してから、四人は看護婦に見付からぬよう、それぞれ二○一号室に忍び込んだ。明りが外に洩れてもいけない。読書灯でテーブルの上だけを照らし、勝負がはじまると段段盛り上がる。「なにしろ、金額が億だからの。これは豪勢だ。ところが熱中すると喉は渇く腹は減る酒は飲みたくなる。よいところでビリゾロ——つまり六の目を揃えたシェフが、じゃ、調理場を捜して来よう、と部屋を出て行った」 この、福岡というのはふしぎな男で、料理の腕は抜群だ。最初、病院の食事などと高を括《くく》っていた海方はボルシチを口にして少なからずびっくりした。 あるとき、海方は福岡に訊いた。「失礼ですがシェフ、あなたはムッシュウ ランバンの薫陶を受けた方と拝見しましたが、違いますか」「いかにも……しかし驚いた。ムッシュウ ランバンの味を見分けるあなたは一体何者ですか」「いや、ただの食い意地の強い男ですが、驚いたのはこっちの方です。シェフほどの腕をお持ちなら、引く手あまたでしょうに、なぜ、病院などで働いているのですか」「なに、下らん話です。あたしゃ料理は好きだが、お世辞が大嫌いでね。客の取り扱いができない。小生意気《こなまいき》なことを言う客とすぐ喧嘩になる。あっちでしくじりこっちでしくじり、あるときつらつら考えた末、これからも俺の性格は変わるまい。それなら、病院の料理人にでも落着いたら客の機嫌|気褄《きづま》をとることもないと思ったんだ」 というやりとりがあって、海方と福岡は仲が良くなったのだ,ルイヴィトン モノグラム 財布。 その福岡が勝負の途中でそっと二○一号室を抜け出し、調理場からミネラルウオーターやワイン、ジュース、缶詰などを紙袋に入れて戻って来た。 物が胃に入ると、再び元気が出る。「ここが肝心なところだ。食物や紙コップは全部、シェフが調理場から調達して来たもので、勿論、ワインやジュースの栓はきちんとしていたし、缶詰も手付かずのものだ。部屋に戻って来てからシェフがそれぞれの栓を開けた。俺は主にワインを頂戴したが、これがシャンパニュー地方の——まあ、そんなことはどうでもいいんだが、俺とシェフがワインを飲み、楽がミネラルウオーターで、双橋がジュース。缶詰のアスパラガスとかコーンビーフなんかを食べていたが、このとき味が変だと言った者は誰もいなかった」 ところが、勝負の途中で、思わぬ訪問者があった。 ドアの方を向いていた海方が最初に気付いた。ドアがそっと開いて、その隙間から誰かが部屋の中を覗いている気配がする。
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