正直に申し上げまして、私個人といたしましても、あの愉快な講義を聴講したあとでは、あなたがこれから先どのような文学世界を追求されることになるのか、とても興味を抱いておりますよ」「このような提案をお持ちいただいたことには、感謝しています」と天吾は言った。「身に余ることです。しかしながらその助成金をいただくわけにはいきません」 牛河は煙を立ち上らせる煙草を指にはさんだまま、目を細め天吾の顔を見ていた。「といいますと?」「まず第一に、僕としてはよく知らない人からお金をうけとりたくないんです。第二に、今のところお金をとくに必要とはしていません。週に三日予備校で教え、それ以外の日に集中して小説を書くことで、それなりにうまくやってきました。そういう生活をあえて変えたくないんです。その二つが理由です」 第三に、牛河さん、僕はあなたと個人的に関わりたいという気持ちになれないんです。第四に、この助成金の話はどう考えても胡散臭《うさんくさ》い。うまくできすぎている。何か裏がありそうだ。僕はもちろん世界一勘の良い人間ではないけれど、それくらいのことは匂いでわかります。しかしもちろん、天吾はそんなことは口には出さなかった。「なるほど」と牛河は言った。そして煙を肺にたっぷりと吸い込み、いかにもうまそうに吐き出した,chloe 財布 人気。「なるほど,OAKLEY アウトレット。お考えは私なりによくわかります。おっしゃること、筋もとおっている。しかしですね、川奈さん、それはそれ、何もここで即答なさらなくてもいいんですよ。うちにお帰りになって、二一二日じつくりと考えてみられたらいかがでしょうね。それからおもむろに結論をお出しになればいい,aokley サングラス 通販。私どもは急ぎません。ゆっくりと時間をかけて考えて下さい。悪い話じゃないんですから」 天吾はきっぱりと短く首を振った。「そう言っていただけるのはありがたいですが、今ここではっきり決めてしまった方が、お互い時間や手間の無駄が省けます。助成金の候補に選んでいただけたことは光栄です。こうしてわざわざここまでご足労いただいたことについても、心苦しく思ってます。しかし今回は遠慮させて下さい。これは最終的な結論で、再考の余地はありません」 牛河は何度か肯き、二口吸っただけの煙草を灰皿の中で惜しそうにもみ消した。「けっこうです。ご意向はよおくわかりました。川奈さんのこ意思は尊重したいと思います。こちらこそお時間を取らせました。残念ですが、今日のところはあきらめて引き上げます」 しかし牛河は立ち上がる気配をいっこうに見せなかった。頭の後ろをぽりぽりと掻き、目を細めただけだった。「ただですね、川奈さん、ご自分ではお気づきにならないかもしれませんが、あなたは作家として将来を嘱望されています。あなたには才能がある。数学と文学とはたぶん直接の関係はないのでしょうが、あなたの数学の講義にはまるで物語を聞いているような趣があります。あれは普通の人に簡単にできることではありません。あなたは何か特別な、語るべきことを持っておられる,オメガ 時計 人気。それは私みたいな人間が見ていても明らかなことです。ですからなるべくご自愛なすった方がいい,coach 財布 ピンク。老婆心ですが、余計なことには巻き込まれずに、心を決めてまっすぐにご自分の道を歩まれた方がよろしい」「余計なこと?」と天吾は聞き返した。「たとえばあなたは『空気さなぎ』を書いた深田絵里子さんと何かしら関係を持っておられるようだ。というか、ああ、これまでに少なくとも何度か会っておられる,オメガ スピードマスター。そうですね? そして今日の新聞記事によれば、たまたまさっきその記事を読んだのですが、彼女はどうやら行方不明になっているようだ。メディアはきつとあれこれ騒ぎ始めるでしょうね。話題性抜群のおいしい事件ですからね」「僕がもし深田絵里子さんに会っているとして、それが何か意味を持つことになりますか?」 牛河はもう一度手のひらを天吾に向けた。小ぶりな手だが、指はむっくりと太い。「まあまあ、そう感情的にならないでくださいな。悪気があって言っているんじゃありません。いや、私が申し上げたいのはですね、生活のために才能や時間を切り売りするのは、良い結果を生まないということです。信越なようですが、私は川奈さんのような磨けば珠になる優れた才能が、つまらないことでひっかきまわされて、損なわれていくのを見たくないんです。深田さんと川奈さんとのあいだのことがもし世間に知られたりしたら、必ず誰かがおたくにやってきますよ。そしてうるさくつきまとうでしょうね。あることないこと詮索します。なにしろしつこい連中ですから」 天吾は何も言わずに黙って牛河の顔を見ていた。牛河は目を細めて大きな耳たぶをぽりぽりと掻いた。耳は小さいのだが、耳たぶだけが異様に大きい。この人物の身体の作りにはどれだけ見ても見飽きないところがあった。「いやいや、私の口からは誰にも洩れません」と牛河は繰り返した。そして口にファスナーをかける身振りをした。「約束しますよ。こう見えて口は堅いんです。はまぐりの生まれかわりじゃないかと言われてます。このことは、私だけの胸の内にしっかりと留めておきます。
相关的主题文章:
DavidCadogan.ca Forums » DavidCadogan.ca
第二に、今のところお金をとくに必要とはしていません
(1 post)-
Posted 12 years ago #
Reply
You must log in to post.