彼らはすぐくるくると回すことができた。Aがやっているのを見て、「ああすればいいのだ」 ということがわかったのだろう。いちばん最初に興味を持って、下に叩き付けられたAは気の毒だったが、多少の犠牲を払ってひとつずつ賢くなっていくのは、新しいものに出くわした人間社会と同じような気がして、なかなか面白い光景だった。 一方、メスのほうは、車にはそれほど興味を示さなかった。のろのろと車を回しはするがすぐ飽きてしまい、落ちているエサを拾い食いするほうに情熱を傾けていた。それならばと割り箸《ばし》とか輪ゴムとか、おもちゃになりそうな物を入れてやったりしたが、やはり食欲のほうが勝っていた。エサをたらふく食べて、寝ているか毛づくろいをしているかどちらかで、とにかく食っちゃ寝、食っちゃ寝なのである。あるとき、「いつもいつもぐうたらして、他にやることはないのかね」 といいながらカゴの中をのぞいてびっくりした。メスのなかでいちばん図体の大きいのが、いちばん小柄なのに対して、腰をつかんで背後からのしかかり、交尾をしようとしているではないか。「やめなさい」 私は思わず手を突っ込んで、二匹を引き離した。「あんたたち、家族じゃないの」 図体の大きいのに説教しても、彼女はそっぽをむいて耳の後ろを掻いたりしている。やられたほうは、カゴの隅っこで、「今のはいったい何だったのかしら」 という雰囲気でぽーっとしていた。浅香唯が和田アキ子に、突然、背後から羽交締めにされたようなものだから、相当なショックだったのに違いない。毎日食っちゃ寝の生活をして、暇を持て余すとメス同士、それも自分の姉妹とまぐわおうとする自堕落な生活は、いくらネズミとはいえちょっと問題であった。 私がいちばん不思議だったのは、図体の大きなメスがどうしてオスがするべき行為を知っていたのかということである。間違えてメスのカゴにオスを入れてしまったわけではないし、唯一考えられるのは、親がしているのを盗み見ていたということだけである。しかしメスに対してむらむらしてしまうメスというのは、動物界に於いては相当変だと思う。同じ状況でもオスのほうは喧嘩はするけれど、まぐわおうとはしなかった。それなのにメスのほうは喧嘩はしないがまぐわおうとする。まるでこれでは「大奥マル秘物語」の淫乱《いんらん》なお局様と純真なお女中みたいな世界ではないか。「あのネズミは外見的にはメスだったが、中身はオスだったのだろうか」「メス同士が一緒にいると、何かのはずみでメスがオスの本能を持つようになってしまうのだろうか」 いろいろ考えてみたが結論はでない。私の疑問に明快な回答をしてくれる本はないかしらと捜したことがあったが、「ネズミのレズビアンに関する研究」などをしている人などいるわけがなく、十七年後の今も、未だにこの件は謎のままなのである。 イノシシ家族 最近、結婚したくないのかできないのか、三十歳そこそこの男性の独身者がふえているらしいが、私の弟もそのうちのひとりである。私よりもはるかに料理や裁縫が上手で家事には苦労しないので、独身でもいいじゃないかと思うのだが、母親にしてみるとちょっと違うようである。「好きな人はいるんだろうか」 とひとりで気を揉んでいる。バレンタインデーのときなどは、「あんた、チョコレートもらったの? えっ? えっ? えっ?」 としつこく後をくっついて歩き、弟に嫌がられたりしたことも、一度や二度ではないのだ。あるとき女性からプレゼントが届いたときは、まるで鬼の首でもとったように大喜びして、私の家に電話をかけてきた。その女性がどういう気持ちで贈ってきたかもわからないのに、「もうすぐかもしれないわ」 とうっとりしている。「もしかしたら、結婚の断りの手紙と一緒に、品物も贈ってきたんじゃないの」 といったらば、「本当にあんたは夢がないことばかりいうのね」 とむくれてしまった。その後、プレゼントの一件が母親の期待とは裏腹に何の進展もないので、少ししょげていた時期もあったのだ。「私だって独身なんだけど」 といっても、彼女は、「あんたはもう、どうだっていいわよ。好きなようにやってちょうだい」 と全く関心を示さない。それなのに弟の件になると、「友だちの〇〇君も××君も、まだひとりでいるみたいなの」 と事細かにチェックしているのである。 だいたい、家はあるが、カーなし、すこぶる元気なババつき。おまけに口の悪い姉つきという家族と、喜んで姻戚《いんせき》関係を持とうとする女性がいるほうがおかしい。弟も結婚したくてしようがないという様子でもなし、未だにギターばっかりいじくり回しているギター小僧なので、こういうのと結婚した女性のほうが気の毒という感じがする。新製品のギターが発売されると、喜々として買ってくる姿を見るたびに、母親は、「ギターを抱くよりも、子供を抱いてほしい」 と嘆いているのだ。 まだ弟が高校生のときだったが、先生に聞いてきたイノシシの話を私にしてくれたことがある。本当か嘘かわからないが、とにかく話はこうである。 イノシシのお父さんとお母さんと子供のウリ坊二匹がいたとする。もし山の中で狩人に見つかったときに、彼らがどうやって逃げるかというと、まずお母さんが先頭で次がウリ坊。そして最後がお父さんという順番で、一列になって逃げるのだそうである。そのときに下手な狩人だとお父さんを撃ってしまう。するとそのすきにお母さんはウリ坊を連れて、さっさと逃げてしまうのだそうである。 ところが賢い狩人になるとお母さんに狙いを定めて仕留めてしまう。すると先頭になるのがウリ坊である。頼りになるお母さんが突然いなくなったものだからウリ坊は仰天し、次に頼るべき存在であるお父さんのあとにくっつこうとする。 そこでお父さんが機転をきかせて、先導して逃げればいいものを、イノシシのお父さんはお母さんがいなくなると、おろおろしてただ目の前のウリ坊のあとをくっついて走るだけ。
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それなのにメスのほうは喧嘩はしないがまぐわおうとする
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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