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これももちろん予期しなかったことです

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  • Started 12 years ago by edsfdq33

  1. edsfdq33
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    。 空港から帰宅して、もちろんそのときは一人暮しだから元女房が居ないのは当然ですが、翌日の昼すぎに電話が入ってきて、「帰ってたの──」「ああ」「何故、電話をくれないの」「うん──」「気がとがめてたの」「そんなことはない」 しかし、億劫《おつくう》だったことは事実です。彼女の方も私の部屋へやってはきましたが、土産だよ、といって出したハンドバッグに眼もくれません。「それで──、お仕事にはなったの」「──わからないな、どうなるか、やってみなくちゃ」「そんな程度のことを強行したの。あたしがわるい女房だったから、今度は当てつけにやってるのね」 ぼくたちは続いてアメリカ西部に行きましたが、これも他に連れがありました。ぼくのものした原稿は自分で予期した出来栄えに遠いどころか、他人の評価もあいまいで、要するに読み捨てられているようでしたが、一応毎月連載する約束になっていましたので、約束の期間は、個人的になにがおころうと、ベティとの旅を続行せざるをえないことになっていたのです。 サイパンで、我々ははじめて二人きりでした。そのうえ、ツインが一室しか空いてなくて、同じ部屋に泊りました。これももちろん予期しなかったことです。フロントで、それを定めたとき、ベティはほとんど平生と変らぬ表情をしていました。そうして、横に立っているぼくに、そのことを相談すらしませんでした。 宿帳には、ミセス羽鳥でなく、秘書ベティ・ジェーン・植木、と書きこみましたが。 しかし、外国語ができないぼくは、彼女と同室の方がすべてに都合よかったのです。別の部屋では、電話が鳴ってもぼくは出られないし、誰か部屋に入ってきても処置に困ります。彼女が部屋の中でも一緒なら、ぼくは安心して手足が伸ばせるのです。多分、彼女も前回の旅でそのことを感じていたでしょう。 ぼくたちはサイパンでの四日間、ツインのべッドを使って、朝夕、寐起きしましたが、まったく瞬間的にも情緒が入りこむ余地がない時間をすごしました。ぼくたちは親子か、兄妹という間柄でした。 すぐそばのべッドですやすやと寐ているベティを眺めながら、いかになんでも、こんなふうにお互いに平静で居られるのはおかしいじゃないかと思っていましたが、そうした話題を口にするのがためらわれて、その旅の終りまでぼくは黙っていました。 いよいよホテルを引きあげるというときになって、「考えてみると、東京の仕事場だって、べッドがついてるんだものね。ぼくは昼間でもしょっちゅうそこで寐ているし、ベティだって長椅子で寐ているときがある。土地が離れてるというだけで同じことだよな」「そうよ、ふだんと変らないわよ」「ああ。つまり、その気になれば東京でだって、いくらでも深くなれたんだから」 エジプトでも、中近東でも、ぼくたちはごく自然に、ひとつの部屋をとりました。彼女には、その方が宿賃が安くついてぼくの懐中が助かるという配慮もあったでしょう。 けれども、そうしたことが度重なるにつれ、ひとつの部屋で、何事もなく寐起きしている形が、ある安定を持ってくるのです。 ひとつの部屋で寐起きしていることが普通ではなく、静穏にせよ新鮮に思える間はそれほどにも思わなかったのですが、これが普通に思えてくると、まるで、何年も何十年も年月をへた夫婦が、肉体を触れ合わすまでもなく、当然そこに居るような形でベティが居るように思えてくるのです。ひょっとしたらベティも、ひそかにそのへんを刺激的に味わっているのかもしれないと思いました。「──トシにわるい。トシに申しわけないことをしている」 と、カイロのホテルでぼくはいいました。「何故? あたしたち、トシを裏切るようなこと、これっぽっちもしてないわ」「戒律で、一生懸命それをやらないように努力しているのならいいんだ。ぼくたちは、我慢してやらないんじゃない。そんなこと、どうだっていいんだろう。普通の関係を飛び越えちゃったんだよ、ぼくたちは」「そういうものかしら──」「そうだとも。だから気がとがめる。ぼくたちのこの越えた関係は、君とトシとの関係を冒涜《ぼうとく》するものだよ。それから、ぼくと元女房の関係に対しても同じことがいえるんだ」 ベティは、カイロのホテルのディスコルームで、ある夜、珍しくカクテルを註文しました。ココナッツのジュースに、ジンと、もう一種類なにか入っていたと思います。「あたしが生まれ育ったマウイ島では、皆よくこれを呑むのよ。なつかしいから」 トシに釘をさされていたけれど、そのときは彼女自身の発意だったのでぼくは黙っていました。彼女は二杯おかわりをした後、綺麗な足を翻して黒人やアラブ人たちと踊りました。それからアメリカ人の楽士と親しくなりました。その楽士は、ベティの二度目の亭主である著名なジャズマンの弟子だということでした。 彼女はその夜楽しそうに情念を発散させていました。ぼくは踊れないので、途中で一人でカジノヘ行きましたが、ディスコが閉店する頃、楽士がカジノのぼくのところへやってきて、「ベティさんとぼくの部屋でパーティをやってます。ジャズのレコードもたくさんあるし、お酒も、ハッシシだってありますよ。貴方も来てください」 彼は手真似もまじえてそういう意味のことをいい、部屋番号を教えて姿を消しました。 ベティは彼を気に入ったんだろうか。ぼくの心の中で、すっとどこかが軽くなったような気がしました。それは本当です。ぼくの彼女に対する気持とは関係なく、すっと軽くなったのです。彼女が気散じをするのをぼくも望んでいるような気持がありました。それから、逆に、トシのために、彼女の気散じをある点までで喰いとめねばならぬと思いました。トシのためにでしたが、トシのためだけだったかどうか。 ぼくは何度か思い返したりしながら、結局、おそい時間に楽士の部屋を訪ねました。ベティは椅子に埋まって眠そうな顔つきでレコードをきいていました
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    Posted 12 years ago #

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