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「いいえ、何も」「どんなお話をされましたか

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  • Started 12 years ago by edsfog69

  1. edsfog69
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    「ええ、どうぞ、お仕事を続けて下さい」「はい」男は頷く。 彼は、持っていた新聞の残りをポストに入れる作業を再開した。鵜飼ともう一人は、それをじっと観察している。山吹も、その場に立って、彼を見ていた。 すべての新聞をポストに入れ、岸野はこちらを向いた。「やっぱり、言うべきですよね」両手を揉むように擦り合わせ、唇を噛んだ。「あの、実は、昨日、町田君から、ここへ来るようにって、電話で呼ばれたんですよ。だけど、少し遅れてしまって……、来てみたら、パトカーがいっぱいで、それで、なんか嫌な感じがしてしまって、それでその、引き返してしまったんですよ。すみません。別にその、なにか悪いことをしたわけでもないし、その、なんで呼ばれたのかもわからないし、えっと、その……」男は、泣きそうな顔になる。聞いている方も顔をしかめたくなるような、苦しそうな話し方だった。「失礼ですが、岸野さんとおっしゃいましたね?」鵜飼の横に立っていた若い男が尋ねた。彼はいつの間にか手帳を広げている。そうすることで、相手にさらなるプレッシャをかけようとしているみたいだった。「はい、岸野です」「町田さんから、電話で呼び出された、ということですが、確かですか?」「はい、そうです」「それは、何時頃のことでしょうか?」「えっと、五時過ぎだったと思います」「確かですか? どうして五時過ぎだと?」「うーん、つまり、一時間後の六時に来いという連絡だったんです。それで、そう、そのときに時計を見ました。五時を少し過ぎていたと思います」 横で聞いている山吹は、この情報で少し興奮した。かなり重要な手がかりではないだろうか。その時点で、町田は生きていて、しかも、この岸野という男を呼び出した、というのだ。殺された時刻の直前ということになる。事件に何らかの関係がある、と考えてしまうのも当然だろう。「電話というのは、携帯ですか?」鵜飼が尋ねた。「はい、そうです。彼も携帯だし、僕も携帯です。あ、そうか、時刻は着信履歴に残っていますね」彼は、携帯を取り出そうとする。「あ、すみません。外のバイクに、僕の鞄が……」「ええ、あとでけっこうです」鵜飼が頷いた。「遅れて来られたとおっしゃいましたが、昨日こちらへ来られたのは何時頃ですか?」「六時半頃だったと思います」「それで、パトカーを見て、引き返していかれた」「ええ、すみません」「町田さんは、何の用事だと言いましたか?」もう一人の刑事が質問する。「いいえ、何も」「どんなお話をされましたか? 何か、いつもと変わった様子はありませんでしたか?」「うーん」岸野は片手を口に当て眉を顰《ひそ》める。オーバな動作に見えたが、おそらく緊張しているためだろう。「いやあ、別に、変わったふうには思えなかったですけど」「誰か、近くにいるようでしたか?」「いえ、わかりません」「どこにいる、と言いましたか?」「いえ、そんなことは話してません。でも、六時に俺のところへ来てくれ、と言いましたから、つまり、マンションにいるのじゃないかって、僕は思いましたけど」「そうやって、理由もなく突然呼び出すことが、これまでにもありましたか?」「ええ、そうですそうです。だいたい、彼はいつもそうなんですよ」「いつもは、来てみると、何があるのですか?」手帳になにかを書きながら、刑事は質問を続ける。「なにもないです。ただ、ちょっと話をするくらいです」「どれくらいの時間?」「いつもは、一時間くらい」 聞いていて、多少変な話だと山吹は思った。突然、友達を呼び出す、それに応じて、やってくる。力関係として、町田の方が強かった、ということだろうか。 山吹は、岸野に対して、戸川と白金のことを聞きたかった。彼女たちと町田の関係についてである。きっと、この男ならば知っているのでは、と思えたからだ。 そこで山吹は刑事たちの顔を見た。すると、鋭い二人分の眼光がこちらへ向かっているのだ。 そうか、自分はこの場では邪魔者か、と山吹は認識する。「すいません。あの、やっぱり、仕事をさきに片づけてきます。終わったら、ここへ戻ってきますから」岸野は刑事たちに頭を下げた。 岸野と一緒に、若い方の刑事がついて、表側のドアから外へ出ていった。ロビィには、鵜飼と山吹が残った。 3「刑事さん、徹夜ですか?」山吹は鵜飼に尋ねた。「ええ、そうです」鵜飼は頷く。改めて見ると、笑顔は意外に人なつっこいことがわかった。「山吹さんは、寝られましたか?」「少し」山吹は答える。「西之園さんの後輩だったとは、奇遇ですね」「いえ、後輩というか、研究指導をしてもらっているだけです。西之園さん、N大なのに、C大に来ているんです。どうしてなのか知りませんけどね。国枝先生と共同研究をしているからかなあ。あ、それより、もの凄く不思議なんですけど、西之園さんは、警察となにか関係があるんですか?」「いいえ」にこにこ笑いながら鵜飼が首をふった。西之園という名前を聞いただけで、表情が十ルックスくらい明るくなるようだ。「特にこれといって正式なものはなにもありませんが、その、いろいろと深いところでつながりがあるんですよ。過去にも、お世話になっております」「よくわかりませんけど、まあいいや」山吹もつられて笑った。しかし、リラックスできたところで急に質問がしたくなる。「その西之園さんの後輩として、ききたいんですけれど、なにか、密室について新たな情報は得られましたか?」「何ですか? その後輩として、という部分は」「西之園さんに伝えますから、よかったら、僕に教えて下さい、という意味です」「なかなかうまいこと言いますね」鵜飼はおどけた様子で躰を揺すった。「いえ、全然ですよ。さっきの岸野という男が捕まったことくらいです」「あ、じゃあ、既に、彼のことに注目していたんですね?」「ええ、探していました。
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    Posted 12 years ago #

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