眉間に皺を寄せて声をひそめ、玉本の背後に視線を配りながら、須田が大きくため息をつく。家族にも知らせて協力をしてもらうべき、という警察の申し入れを、まるで人が変わったのではないかというほどの怒りを見せて、須田はかたくなに拒否しているのだ。容疑者が緊急手配をされたその日に逮捕されていたら、それはそれで済んでいたかも知れないが、ここまで時間が経過すると、家族や周囲に、いつまで隠しつづけられるか。「どうですか先生、何か変わったことはありませんか」「そんなもの、何もありませんが、ねえ駐在さん、犯人はなぜ捕まらないんです」「さあ、まあ、どこかへ逃げてしまったんでしょうなあ」「逮捕されたら、すぐに連絡を」「そりゃ当然です。ですが先生、あれから二日もたって逮捕されないということは、犯人はもうこの近くにはおらんと、そういうことですよ。家に閉じこもっている必要は、ないと思いますなあ」「そうかも知れないが……いやね、テレビを見てると、犯人の動機がどうとか、さかんに騒ぐでしょう。今になってみれば、その、もちろん反省はしますけど、だからって二十年前のあのことで私の名前が出ちゃったら、子供たちにも、村の人たちにも、私は、顔向けができなくなる」「無用な心配ですよ。警察には一般の方の人権を守るために、秘匿義務があります。先生の名前はどこからも洩れはしませんよ」「ただ、テレビとか、週刊誌とか……」「心配性なんですなあ。そりゃまだ犯人は捕まっていませんが、これだけ顔や名前がテレビで騒がれれば、逮捕は時間の問題です。逮捕されて、もし動機がどうとかってことになっても、世間は被害者のほうに同情しますよ。小長ってやつの言い分なんか、どう考えても筋が通りません」「それは、もちろん、そうなんだろうけど……」「いえね。巡回の途中で様子を見に伺っただけで、変わったことがなければ、それで結構なんです。今も言いましたように、犯人はもう東京あたりへ逃げていると思われます。無用な心配はなさらずに、明日はもう、学校へも」「ええ、ええ、まあ」「もちろん逮捕の一報が入ったら、すぐにお知らせします,OAKLEY サングラス 店舗。くれぐれも、気にしすぎませんように」 玉本が軽く敬礼をして玄関から離れ、二、三歩あるいたところで、ちょっと後ろをふり返る。「先生、この椿、変わってますねえ」「こんな時季に花が、でしょう」「そうそう。山茶花《さざんか》にしても、まだ一ヵ月は先だと思うけど」「私も不思議なんです。ただの寒椿で、去年までは十二月に咲いてたんですけどね。気候の加減かなにか、それとも子供が小便でもひっかけたか」「ふーん、小便ねえ。まあとにかく、そういうことで、一応はお気をつけください」 玉本がまた敬礼をしてバイクへ歩き、須田も玄関の内へ姿を消して、ガラス戸を閉める。これが都会なら、ましてこんな状況なら玄関に鍵をかけない人間などいるはずはないのに、田舎には遺伝子的に、その発想がないのだろう。 そりやいくら家族に顔向けができなくたって、いくら一人で隠そうとしたって、名前なんかすぐバレちゃいますよ、先生。 「駐在さんもご苦労ですよね,ヴィトン 財布 メンズ。午前中にも二回、あの家を見回ってます」「勤勉で真面目な警官ってことだがね。そりゃそれとして大林くん。駐在所の女房《かみ》さんに電話して、あまりここへは近寄らねえように言ってやりない。やたら制服がうろうろすると、小長だって出ずれえがね」「はあ、それでは、そのように」 大林がケイタイをとり出して駐在所へ電話を入れ、二こと三こと話しただけで、すぐに電話を切る。クルマをとめてあるのは須田の家から百メートルほど離れた雑木林の陰で、そこからはちょうど石の門と、その奥にある須田教諭夫妻の家が見渡せる。前の席では大林と楠木が双眼鏡を構えて周囲を警戒し、後部座席では坂森が靴を脱いで足を投げ出している。四面の窓すべてが開いているのは三人が吹かすタバコのせいで、後部座席用の灰皿からはすでに吸殻が二本、床のゴムシートにこぼれている,coach 財布 ピンク。昔は張り込みの十日ぐらい屁でもなかったのにな、とは思いながら、肩が凝って腰が痛くて、坂森はつくづく自分の歳を考えてしまう,oakley メガネ。「ですけどねえ坂森さん……」 大林が額の脂を手の甲で拭きながら、窓枠にかけた肘に顎をのせて、低く鼻を鳴らす。「これ以上見張っていても、やっぱり、無駄じゃないですかねえ」「無駄だって何だって、他にすることがあるかね」「それは、そうですけど」「検問だってまだつづけてらい,オメガ デ ヴィル。消防団にも話を通して、山狩りもしてもらってる。こうやって待つ以外、俺たちにすることはなかんべえよ」「ですが、あれからもう二日ですよ。小長はとっくに、逃亡してると思うけど」「正直言うとなあ」「はい」「俺もお前さんと、同じ考えだい」「はあ、そうですか」「あれだけ秩父からの出口を固めて、それでも網にかからねえ。ということは一歩か二歩の違いで、逃げられちまったってことだい」「それなら、なぜ」「ただの勘だよ」「勘、ですか」「お前さんらは知るめえが、昔の人間は山を越えるとき、尾根伝いに歩いたもんだがね,オメガ シーマスター。落ち武者だって山奥へ住み着くときに、下から登っていったんじゃねえ。尾根伝いに山を越えてきて、上から下を見おろすんだい。それで日当たりがどうとか水はありそうだとか、そういうふうにな」「はーあ」「猟師だって行商だって、道もねえ山を歩くにゃあ、みんな尾根を伝ったもんさ。と、そりゃあ親父から聞いた話だけどよ」「で、それが?」「小長って野郎がもし、尾根歩きの理屈を知ってたら……」「いくらなんでも、それは、無理ですよ」「承知してらい。小長はいま一歩のところで網の目をくぐり抜けて、はあ今ごろは、歌舞伎町あたりのソープランドだんべえ」「ソープランドというのは、ちょっと」「たとえばの話だがね。
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と、そりゃあ親父から聞いた話だけどよ」「で、それが
(1 post)-
Posted 13 years ago #
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