確かに、二か月前の検査結果は陰性だった。だが、来月の検査でどんな結果がでるかわかったものではない。 廊下から響く足音に反応したように装って、顔を大きく背けた。馨の脳裏には、昨日の午後の、亮次の個室での光景が、血と肉の圧迫を伴ってフラッシュバックしてくる,coach 財布 ピンク。身体を突き動かした衝動や、感覚の起伏が、断続的に蘇《よみがえ》るのだった。 おとといの夕方は、礼子との接触をキスだけにとどめておくしかなかった,OAKLEY サングラス 店舗。病棟最上階の廊下だったこともあり、ふたりに与えられた時間はほんの数分に過ぎない。病院という場所柄を考えれば、それ以上のことは望むべくもなかったのである。 ところが、昨日の午後、亮次の病室に置き忘れた病理学の教科書を取りに立ち寄ると、検査のために亮次は放射線科まで呼び出された直後であった。その時間に検査があることを馨は知らなかったし、礼子からも教えられてなかった。馨は、亮次が検査に連れ出されたのを見計らうような格好で、病室を訪れることになってしまったのだ。 小さくノックするとすぐ、病室のドアは開けられた。ドアの細い隙間《すきま》から見えたのは、濡《ぬ》れた礼子の顔だった。手にタオルを持っていることから、顔を洗っている最中だとわかる。ドアのすぐ左側に流しがあり、その上には十ワットの蛍光灯がともっていた。バスルームではなく、手洗い用の流しで、礼子は化粧を落としていたらしい。 顔にタオルをあてながら、礼子は、押し殺した声で言う。「忘れ物を取りに来たんでしょ」「ごめんなさい、突然に」 馨もつられて声を落とした。部屋の中に亮次がいる気配はなかった。「入って」 礼子は、馨の手を引いて部屋に導き入れ、ドアを閉めた。流しの横に立って、ふたりは鏡を前にして向かい合う。礼子は持っていたタオルで顔を拭《ふ》き、馨の前に素顔を見せた,オメガ デ ヴィル。目尻《めじり》に歳相応の皺《しわ》が刻まれ、かえって魅力的でもある。 馨は、衝立《ついたて》の奥のベッドを顎《あご》で指し示し、亮次がいない訳をそれとなく尋ねた,coach 財布 激安。「たった今、看護婦に連れていかれたところなの」「検査?」「ええ」「何の検査?」「シンチグラム検査……」 言い慣れてないらしく、たどたどしい発音でそう言った。 化学療法に先立つシンチグラム検査は、造影剤を血管に注射するために、最低でも二時間ばかり時間が取られる。検査が終わるまで、部屋に入ってくる者はだれもいないはずだ。礼子と馨は、束の間、ふたりだけの個室を手に入れたのである。 検査に連れ出されたことにより、礼子は、息子の化学療法が目前に迫ったことを実感し、悄然《しようぜん》としていた。また苦しい闘いが始まるのだ。抗ガン剤は、ガン細胞を攻撃するだけでなく正常な細胞をも傷つける。身体のだるさや、食欲不振、吐き気などに苦しむ息子の姿を見るのは、何よりも辛《つら》い。しかも、この苦しい闘いに耐えたからといって、ガン細胞が消滅するわけではなかった。細胞増殖の速度を少し押さえるだけで、決定的な時期を先延ばしにするだけである。このガンの場合、転移は避けられない運命にある。 馨は、息子を連れ去られた母親に対して、どう言葉をかけていいかわからなかった。見え透いた気休めはよけいに礼子を消沈させるだけだ。 礼子は正面から馨の目を見据えた。「奇跡って、待っていれば来るの」 両手で馨の手を包み込んできた。癖なのだろう、礼子はすぐ手に触れてくる,ルイヴィトン 財布 モノグラム 二つ折り。「わからない」「もううんざりなの、こんな生活」「おれだって同じさ」「どうにかして、お願い,coach 財布 新作。あの子とわたしを助けて。あなたならできるでしょ」……できるもんか! 胸の中ではそう叫びつつ、しかし、決して声には出せなかった。 礼子の前髪の何本かが、水に濡れて額にくっついていた。その下で目が潤《うる》み、哀願の色が浮かぶ。今にも泣き出しそうに口許は歪《ゆが》み、見ているだけで愛しさが増した。どうにかして助けてやりたかった。この可憐《かれん》な肉体が滅びるのを、なす術もなく眺めているわけにはいかないのだ。
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礼子と馨は、束の間、ふたりだけの個室を手に入れたのである
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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