DavidCadogan.ca Forums » DavidCadogan.ca

いや、ごめん、ごめん

(1 post)
  • Started 12 years ago by denielttp

  1. denielttp
    Member

    終り。しかし読み返してみると、折角の秘話も期待したほど効果をあげてないし、理屈もすつきり通らないし、どうもをかしい。それは仕方がないとしても、前のほうを削つて規定の字数に収めるのがうまくゆかない。まして「ゼロ発信」らしく話の恰好をつけ、意見を述べたやうな述べないやうな具合にするなんて、とてもとても,coach 財布 アウトレット。ああ困つたなあ。絶望だ。浦野は悲観し、苦悶し、論説委員長を怨み、自分があのときいい気になつて引受けたことを悔んだ。実を言ふと、南弓子が晝すぎから姿を見せず、どうやら帰つてしまつたらしいことも腹が立つ。あの女は一体どういふつもりなのか。あ、さう言へば今日はデスクがちつとも寄つて来ない。見はなされたわけか。今は七時で締切りは八時くらゐまで延びるはずだが、この調子ではおそらく間に合はないだらう,ルイヴィトン モノグラム 財布。誰か南弓子以外の論説委員をつかまへて、書き直しを頼まなくちやと考へ、でももう一度、読み返し、思案にふけつてゐると、とつぜん横で女の笑ひ声があつた。顔をあげると、南弓子である。 彼女は会議が終るとすぐ、アフリカの女大臣のインタビューに出かけ、デパートでカーテンと玄関用の小さな絨毯と漆塗りのお椀三客と自分の靴を買ひ、夕食は労働省にゐる女友達といつしよに軽くすませて、社に立ち寄つた。浦野のことなど忘れてゐたため、彼が先日とまつたく同じやうに憔悴《しようすい》して机に向ひ、頭をかかへてゐるのを見ると、思はず笑ひ出してしまつたのだ。 浦野は、「あ、ひどいなあ。人がこれだけ困つてるのに」「ごめんなさい。でも、このあひだとそつくりなんですもの」「うん、滑稽だらうな,ルイヴィトン ショルダーバッグ。それはわかる。でも、笑ふのは失礼ですよ。お詫びのしるしに、これを直して下さい」 と言つて浦野は原稿用紙を差出し、内心、じつにいい呼吸だなあとわれながら感心した。弓子はまたもや、つい受取つてしまつた。今度はどんなものを書いたかといふ好奇心もあるけれど。そしてくすくす笑ひながら読み終へた。論説のときほどは感心しなかつたが、それでもやはり光るものがあるし、地獄耳と反体制的感情との結びつきが新聞記者らしくていいし、勲章をもらふ人を祝ふよりもむしろ、もらはなかつた人を慰めようとする態度が感動的だ。しかし、書き方は義理にも上手と言へない。「とてもおもしろかつた。本田宗一郎氏の話、傑作ですね,ヴィトン 財布 メンズ。笑つちやふ,ルイヴィトン ボストンバッグ。本当なの?」「大丈夫、大丈夫」「かういふものなのね、官僚のすることつて。でも……」 と言ひかけると、浦野は、「うん、このままでは出せません。わかる、わかる。第一、うんとオーバーしてるし。ところが、いくら頑張つても、削ることも直すこともできないんですよ。むづかしいなあ、文章書くのは。ぼくは小学生のときから作文が苦手で……。あ、この話、前にもしましたね。ねえ、直してくれよ」 とまた両手を合せて拝む。そして拝みつづけながら、「すつかり書き直してかまはないから。ね、頼みます」 弓子は、「ええ。書きますから、拝むのはよして」 と引受けて安心させてから、叙勲関係のことを根掘り葉掘り質問し、それから浦野を運動部と調査室にゆかせていろいろ調べさせた。前警視庁キャップはさすが呑込みが早くて、余計なことを問ひ返さず、言ひつけ通りに調べあげる。テキパキと能率がいい。用意が整つたところで弓子は書いた。 間もなく春の叙勲だが、叙勲そのものは非常に意義があるけれども選考の基準がをかしい、といふ書き出しからはじまつて、その基準は人物や業績ではなく、公職(およびそれに準ずるもの)の高下《こうげ》と回数である、と要約したのち、勲七等から勲四等まで叙勲者をさかのぼり、「途中をかなり飛ばす形になるが」大臣一回なら勲一等旭日大綬章、大勲位大綬章を生前に受けたのは二人の元首相、と紹介する。だがこの二人だつて、功績によるよりはむしろ、吉田茂は五回、七年間、佐藤栄作は三回、七年八ケ月、内閣の首班であつたから、といふのが叙勲の論理であらう。もともとそんな仕組だから、たとへばホンダの本田宗一郎氏の場合、売春対策審議会長だつたことを無理やり探し出し、そのせいで勲一等を授けるなんて苦しい話になるのである。さて、ここで結論。 これではまるで長嶋茂雄氏の経歴において、タイムリ・ヒットを数多く打ち、華麗な守備を見せて、ジャイアンツをしばしば優勝させたことより、引退後、ゲートボール協会の会長を勤めたことを評価するようなものだ。こういう滑稽で非合理的な基準は、そろそろ改める時期にさしかかっているのではないか。 七十何歳になつても勲章をもらへない人に対するねぎらひは、表面には記してないが、しかし論旨からおのづから導き出されるやうになつてゐる。これでいいわけだ。 浦野はじつくりと二度読んで、出来ばえを褒め、礼を言ひ、「なるほど、長嶋をかう使ふのか。どうしてこんなこと調べるのかなあと不思議で仕方なかつたんですよ。うまい、うまい」 と派手におだてた。弓子は内心すこぶる得意であるけれど、「長嶋さんとマリリン・モンローだけは、いくら褒めても誰も怒らないんですつて」 とその讃辞を受け流しながら、微笑した。「さすがに才媛《さいえん》は違ふなあ,chloe 財布 リリィ。いや、ごめん、ごめん。美女にしてかつ才媛。じつにすばらしい」「あら、論説委員にはもつたいないみたい。広告局長にぴつたり」 短い原稿の直しとはいへ文章を書いたあとなので、興奮の名残りで眼をきらきらさせてゐる。冗談は口をついて出るが、けだるさうで、すぐに引上げようといふ気配ではない。浦野はその様子を見まもつてゐるうちに、女教師に作文を直してもらつた小学生のやうな幸福な気分になり、そのついでに、じつにをかしなことを考へた。一体どうしてこんなに親切にしてくれるのだらうと思つたのだ。言ふまでもなく、自分がさんざん頼んだくせにこんな感想をいだくのは理屈に合はない。しかしとにかく彼はさう思ひ、そして一旦この疑問が心に浮ぶと、同時に論説委員になつた仲で席が隣りだからとか、大の男の新聞記者が文章が書けないで困つてるのが見るに見かねたからとか、目のつけ所がいい論説(と褒めたのはお世辞ぢやあるまい)だからとか、そんな理由ではすまない至れり盡《つく》せりの親切であるやうに見えて来る。これまでの、調べた結果を話して記事にまとめさせる場合には、部下とか、それに近いとか、まあさういふ関係だつたのに、今度は明らかに違ふし、今まで懇意だつたわけでもない。さう思つて不思議がつてゐるうちに、だしぬけに、突如、俄然、もつと奇妙な感想が彼を襲つた。ひよつとするとこの女は自分に惚れてゐるのかもしれない、と思つたのである。
    相关的主题文章:

    Posted 12 years ago #

RSS feed for this topic

Reply

You must log in to post.