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医者の診断は軽い痔瘻《じろう》だった

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  • Started 12 years ago by fdamhkdhx

  1. 。東京から電車で一時間半あれば行ける町だ。通勤も不可能ではない……」 男は一度眼を伏せてから、「どうします?」と口調を改めた。 中背で痩《や》せこけた辰夫は、じっと考えている様子である。それは、あくまでも〈様子〉であって、結論はすでに出ている。ただ、あまり早く結論を口にしたのでは、相手にすまない気がするので、考えるふりをしている。「決心したほうが賢明だと思うがね」 と男は促すように言った。「間もなく、きみの失業保険は切れる。それから、と——遠からず、二十八になるじゃないか、きみは」 大きなお世話だ、と、辰夫は思った。「どうするかね? きみが断れば、ほかの人がこの職につく。教職課程なしで教師になれる口なんて、そう、ざらにはないぞ」 そりゃ、そうだろう、と辰夫は心の中で呟く。しかし、うまい話というのは、たいてい、危険なしっぽが付いている。その私立高校は、卒業式のあとで、生徒が教師をバットで殴り倒す事件で有名だった。新聞で何度か読んでいる。「せっかくですが……」 彼は語尾をにごした,chloe 財布 人気。「そうか、断るのか」 と男は念を押して、「きみは、こういう職業につきたい、という強い希望があるのか」 勤めそのものがいやなのだ、と答えたら、相手はひっくりかえるだろう、と思った。 大学を出てから、辰夫は、三度、会社勤めをした。 最初の会社は化粧品のセールスで、一年間つとめたが、醜い女がいくら化粧しても無駄《むだ》だ、と社内で口走ったことから、問題が起った。そういう考えを持っていては、セールスマンとして失格だというのだ,OAKLEY サングラス 店舗。美人なら、それほど化粧をしないですむのじゃないですか、そんなことはあなただって心の中では思っているのでしょう、と上司に言ったところ、「私は夢にも思っていない。女性を美醜で区別したことなどない」という。これには恐れ入った。「ぼくだって心の中で思っているだけです。たまたま内輪の席だから口に出したのです」と言いわけしたのだが、社のイメージを汚《けが》すとかで、首になった。社員十数人の会社で、イメージも糸瓜《へちま》もあるものか,オメガ シーマスターアクアテラ。 次の会社は、アメリカ人の数の方が多い貿易会社だった。この会社には三年いたし、信用もされていたのだが、社の機密書類が紛失したことからトラブルが起った,coach 財布 人気。社長は辰夫の犯した失策だと言い、辰夫はアメリカ人の中の不良社員の仕業とみて、自分の過失ではない、と主張した。「そこまで自信を持って言えるのは神だけだよ」 と社長が達者な日本語で皮肉ったので、少し言い過ぎかな、とも思ったが、辰夫は、「じゃ、ぼくは神かも知れませんね」と冗談を言った。 これがいけなかった。機密書類を持ち逃げしたのが眼の青い不良社員と判明してからも、社長は辰夫を狂人を見るような眼つきで眺めて、「彼は自分を神だと信じている」と呟くのだった。辰夫にとって〈神〉とは、台所の隅《すみ》に貼《は》ってある煤《すす》けたお札のたぐいだったが、社長は違う考えを持っているらしく、やがて、辰夫を首にした。 三つ目の会社は、小さな広告業で、なかなか居心地が良かったが、今年の初夏に具合がおかしくなった。会社が終ってから安保反対のデモに行くのを、重役が気にしたのである。初めは「怪我《けが》をするなよ」と遠まわしに止めていたのが、だんだん高圧的になり、デモに加わってはいけない、と言い出した,oakley メガネ。アメリカからの輸入品の広告を作っているのに、反米的な行動は好ましくない、という。辰夫は驚いた。彼は岸内閣が嫌《きら》いなだけで、反米などという感情はない。むしろ親米的である。アメリカ民主主義を手本とする戦後の教育を受けて育ったのだから、完全な反米になりようがない。 だが、非政治的人間である彼は、どうも、うまく反論できない。ただ岸内閣は嫌いなので、シュプレヒコールとともにデモ隊が窓の外を通ると、血が騒ぐ,OAKLEY アウトレット。生れつき、〈忍耐〉とか〈我慢〉とかいった文字と縁が薄いので、血が騒ぎだすと、とまらないのである。樺美智子《かんばみちこ》が殺された雨の夜は、ひとりでダイナマイトを持って国会に突っ込んでやろうかと思った。 熱病にかかったような毎日であった。新安保条約が成立し、瘧《おこり》が落ちた時、彼は首になっており、しかも、連日の〈座り込み〉で身体《からだ》を悪くした。医者の診断は軽い痔瘻《じろう》だった。色気のない病気である。(もう、勤めはいやだ) というのは切実な想《おも》いだった。(あれは堪《こら》え性《しよう》のある人がやることだ。それに、どうも、おれは、ひとこと多い)「希望の職種があるのかね?」 相手は焦《じ》れったそうに言った。(自由な職業だ、底抜けに自由な……だが、そんな職業があるはずはない)「きみは頑固《がんこ》なようだな」と男は言った。「それを捨てない限り、どんな職についても成功はむずかしい」 師走《しわす》のせいか、国電はいつもより人が多かった。 新宿駅のプラットホームでは新聞紙が寒風に舞っているが、それでも、ここまでくると、ほっとする
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    Posted 12 years ago #

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