。……そういう訳で、僕はその、〈起こるかも知れない〉ってのを、〈起こさなくてはならない〉とするだけなんだ。言わばこれは、犯人に課する|荊冠《けいかん》なのさ,オメガ スピードマスター。いったん殺人を犯した者は、その|呪縛《じゅばく》を受けねばならない。そうさ。殺人者は走り続けねばならないんだ。……もっとも、探偵の側としては、起こるべき第二、第三の殺人が勃発する前に犯人を指摘する、という点に意義があるんだから、そういう意味では探偵側への戒律ともなり得なくはないんだけど。あっはっは、何だか理屈っぼくなっちゃったけど、そういうことなのさ。ところでだね、ナイルズ」 え、と呟いてナイルズが振り向くと、寸分と違わぬ同じ顔が『黄色い部屋』のなかで向かい合った。「『いかにして密室はつくられたか』のことだけど、あれを書き続けるってことは、現実にこうして事件が起こった以上、事実そのまま、曳間さんが殺されたという発端から書き進めなきゃならないってことにほかならないだろう。どうなんだい」「勿論そうするつもりだよ」「ふん、するとナイルズ、お前はほかの探偵達と違って、もうひとつ余分な戒律を担わなくちゃならないんだよ。判ってるんだろうね。それは、この現実を先取りした小説を書かなくちゃならないということさ!」 ホランドが言い放つと、その言葉は部屋の周囲に|弾《はじ》き返されて、再び宙空の一点で、はっしとかちあったようだった。それは不思議な、美しい|瞶《みつ》めあいだった。そうしてひき|搾《しぼ》られた|発条《ぜんまい》がゆるゆるとほぐれだすようにナイルズが口を開こうとした途端、再びホランドは厳しい口調で畳みかけた。「それがナイルズ、お前への荊冠にほかならないんだ。あはは、これくらいの|鞭《むち》のあった方が、お前も書き易いんじゃないのかな。つまりそれは、犯人の意図というものを、この現実ごとひっくるめて、予め壺のなかに封じこめてしまうことだよ,OAKLEY アウトレット。これから先に起こる筈の事件の|悉《ことごと》くを含めてね」「判ってるよ、それくらい!」 突然にナイルズは荒々しく叫んだ。「あったりまえじゃないか。そんなことも考えないまま書こうとしてると思うの」 そう言ってのけると、ぷいと背を向けて、ふくれっ面を組んだ腕の上に落とした。そこで仕方なく根戸が、「まるで|拗《す》ねた小学生そのままだな。まあ兄弟喧嘩だけは遠慮して貰おうか」「別に、喧嘩のつもりじゃあないんだけどね」 ホランドはそう言って、ほっと息を抜くと脚を組み変えた。 その一瞬倉野は再び何かを見たような気がした。何やら黒い影のようなもの。ラメのように光沢の流れる髪、黒曜の瞳、あかい脣、ぴったりした黒いTシャツから惜し気もなく伸ばされた手、不可思議な交錯を見せるコールテンのジーンズ、そしてグレーのデザート・ブーツ。それらの何が倉野の眼を惹いたものか、彼自身にもよく判らなかった。ブーツの底に何か|染《しみ》のようなものがついていて、それが脚の動きにつれて規則的に揺れ、振り子のように倉野の眼に映る。規則的な揺れ。 誰かの話に出て来たような。 そんなことを思い続けながら、倉野はぼんやりとホランドを瞶めていた。[#ここから3字下げ]10 さかさまの殺人[#ここで字下げ終わり] でも、と言いかけて、ナイルズは不意に口を|鎖《とざ》した。 月のせいかも知れなかった。 赤い赤い月。鈍い薄墨に朱をぽとりと落としたような、唐突な月だった。憂鬱そうな|牽《かさ》だけが|蒼《あおざ》褪めた男の膚のように透きとおって、その向こうに朧な翳がわらわらと通り過ぎてゆく。滲み展がるような、 満月,ルイヴィトン 財布 モノグラム 二つ折り。 その長く暗い街の底を、ナイルズと倉野が寄りそうように歩いてゆく。『黄色い部屋』での熱気がまだ醒めやらないのか、ナイルズの頬はぽっと上気したままで、そのことが倉野の胸に、ずいぶん以前からつき刺さったままだった,OAKLEY サングラス 店舗。それは細かな|棘《とげ》のように、微かな痛みさえ感じさせる,ルイヴィトン 財布 モノグラム 三つ折り。でも、と言いかけたまま、ナイルズはまっすぐ前を|瞶《みつ》めていた。宵闇の大通りは依然人通りが多く、瞬くネオンサインやよそよそしく走り去る車のテールランプが、赤に青に、やけに鮮明に|煌《きらめ》いていた。鮮やかな闇。そしてそのなかで赤い満月だけが、何かしらこの世のものとも思われぬ異様な気配を漂わせて、宙空に|懸《か》かっている,chloe 財布 人気。 どうしても一度、殺人現場を見届けておきたい。それもなるべく早く。そういうナイルズを軽い気持ちで誘って、あとはアームチェアディテクティブを決めこんだ連中と『黄色い部屋』で別れ、とっくに夕暮れも過ぎてしまった街なかに出てきたのである。そしてこれは単なるふたりの気まぐれで、赤坂から倉野の下宿のある目白へと歩いて帰ることにしたのだった。 先刻の会合のことやら、来たるべき推理較らべのことやらを取りとめもなく喋っていた最中に、不意に、でも、と言いかけて黙ってしまったナイルズに、倉野は不可解な胸の痛みを一層強く意識させられていた
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何やら黒い影のようなもの
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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