。携帯用の空気清浄器を使えばまだ呼吸はできるが、その前にバッテリーが切れ、艇内の気圧を保つ圧搾《あっさく》機械が停止したり、スーツの内側に仕込まれた温熱器が作動しなくなれば、抵抗力の衰えた体は早晩心停止を起こすか、凍死を免れないだろう。 どのみち、ゆっくり死ぬ結果には変わりがないということか。それは嫌だなと思い、そもそも自分はどうして生き続けているんだろう? と続けて考えた「彼女」は、まだ死んでいないからだ、と味もそっけもない結論を出して、天井の赤色灯をぼんやり見上げた。一瞬に訪れる死を望むなら、それを叶える道具はある。こんな状況に陥るずっと前から、その機会は幾度も「彼女」のそばをかすめ、通り過ぎていった。しかし「彼女」が、自ら進んで死を受け入れようとしたことは一度もなく——深度五十メートルの海底に沈められ、冷たく汚濁した空気に身を浸しているいまも、そうする気にはなれずにいるのだった。 もはや存在しない祖国への忠誠心、与えられた任務への責任感、どれも違う。ただ、いまはそれをすべき時ではないと感じる。ひと息に死ねば楽になると考えるのは、苦しさに負けている自分だ。それは本当の自分ではない。よしんば死を選択しなければならない状況になっても、その時は自分の意志で実行したい。まともにものを考えられる時、そうするだけの意義があると判断できる時でなければ、自発的な死は選ぶべきではない——。この鉄の棺桶に封じ込められた瞬間から……いや、「白い家」に収容された時から、それを支えに命を長らえてきた信条を胸に抱き直し、「彼女」は思考を閉じた。艇内を満たす冷たい海水から指先を引き上げ、短い眠りにつこうとしたが、不意に巨大ななにかが感知野に押し入るのを知覚して、咄嗟《とっさ》に手のひらを水に浸けた。 水圧の襞を押し分け、ずるりと感知野内の海に入り込んできたのは、ガトー級の潜水艦だった。米海軍が所有する潜水艦の中でもっとも数が多く、二百隻あまりが就航している主力潜水艦,coach財布レディース。だが「彼女」には、船体表面の修理跡とプロペラ音の癖から、それが馴染みの艦であることがわかっていた。二ヵ月以上ものあいだ自分たちを追い回し、ここ一週間は獲物を捜しあぐねる猟犬よろしく、周辺の海底をソナーの鼻で探り続けている。母艦の人たちが〈しつこいアメリカ人〉と仇名《あだな》する、ガトー級潜水艦だ。 昨日から姿が見えなかったのは、別の海域で補給を受けるためだったらしい。艦首から放たれたアクティブ・ソナーの探信音波が波紋を広げ、岩礁に反射して複雑な幾何学模様を描くさまを感知野に捉えつつ、「彼女」はひっそり息をついた。三キロ以上離れた〈しつこいアメリカ人〉の航跡も、的外れな場所に打ち放たれる探信音波も、直接的な危機を感じさせるものではなく、むしろ徒労という言葉を思い出させる。それは来るはずのない救援を待ち、海底で息を潜める身のやりきれなさも実感させて、「彼女」は今度こそ水中から手のひらを引き抜いていた。 同じ生き物でも、人間の所業には可愛げがない,coach 財布 人気。こんな彩りならない方がましだと思い、「彼女」は目を閉じた。視野も感知野も閉ざされた真実の闇に身を置き、ふやけきった指先で座席の端を軽く叩き、リズムを取りながら歌を唄った。 そうでもしないと眠れそうになかった。とっくの昔に唄い尽くしてしまった知っている歌の中から、「彼女」はいたずら心半分でドイツ民謡を選んだ。[#ここから2字下げ]こぎゆく舟人 歌にあこがれ岩根も見やらず 仰げばやがて波間に沈むる 人も舟もくすしき魔が歌 唄うローレライ[#ここで字下げ終わり]〈しつこいアメリカ人〉が、どの程度の情報をもとに捜索を行っているのかはわからない,chloe 財布 lily。だが多少なりともこちらに関する知識があるなら、この歌を聞けば震え上がるはずだ——。唇の端に微笑を刻み、「彼女」は唄い続けた。かすれ声しか出せないのでは、万一にも敵のパッシブ・ソナーに探知されることはない,オメガ スピードマスター。そう呟く理性を無視して、狭い艇内にこだまする自分の歌声に耳を澄ました。[#ここから7字下げ]※[#ここで字下げ終わり](急速潜航,オメガ 時計 人気!) 伝声管の号令一下、警報ベルが艦内に鳴り響き、ディーゼル機関の唸りが止まる。代わって蓄電池の電力がモーターを動かし、スクリュー軸を回し始める中、パートで待機していた兵員たちが一斉に走り出した,ルイヴィトン モノグラム 財布。 狭い通路を一列になって走り、中央補助室、烹炊《ほうすい》所を抜けて艦首へ。発令所に差しかかると、艦橋《かんきょう》上にいた見張り員が次々ラッタルを滑り降りてくるのが見え、最後のひとりが「ハッチよし!」と叫ぶ声が耳をつんざいた。「ベント開け。深さ十八」と令した絹見《まさみ》艦長は潜望鏡に取りついて動かず、先任将校の高須《たかす》はストップウォッチを片手に、発令所要員の動作ひとつひとつに観察の目を飛ばす。フリッツひとりが艦尾側の隔壁《かくへき》に背中を預け、我関せずといった顔で発令所の喧噪《けんそう》を眺めるのを横目にしつつ、征人《ゆきと》は発令所を抜けて冷蔵室の区画に飛び込んだ
相关的主题文章:
DavidCadogan.ca Forums » DavidCadogan.ca
一瞬に訪れる死を望むなら、それを叶える道具はある
(1 post)-
Posted 12 years ago #
Reply
You must log in to post.