。蓋がぐらぐら動いている。 キングにつられるように、ロッキーも吠え始めた。真一は叱りつけ、頭を叩いてその場に座らせた。ロッキーは唸ったが、真一がもう一度頭を叩くと耳を垂れ、腰をおろした。真一はロッキーを抱えるようにして遊歩道の端に離れて行くと、植え込みのぐるりを囲んでいる柵に、手早く革ひもを結びつけた。 キングは完全にゴミ箱にのしかかり、蓋の隙間に鼻面を突っ込んでいる。何かを探しているようにも見えた。「キングってば、駄目よそんなことしちゃ!」 飼い主の女の子は割れた声で叫んだ。けれども、それを目の当たりにしてもまだ、真一は彼女の手助けをしに行くこともできず、どうしたらいいかも判らなかった。他人《 ひ と 》と関わり合いになりたくない──ならない方がいい── キングの狂乱に刺激され、一度は黙ったロッキーがまた吠え始めた。真一はロッキーを振り返り、叱りつけ、そのとき、とうとうキングがゴミ箱をひっくり返した。 キングもゴミ箱と一緒に地面に倒れた。その拍子に、飼い主の手から革ひもが離れた。自由の身になったキングは、横倒しになったゴミ箱の中身に飛びかかった。内側の半透明のゴミ袋を引っぱり出し、爪と牙とで引き裂く。つぶれた紙カップ、ファーストフードの袋──ゴミの臭いがプンと鼻をつく。「嫌だ……臭い!」 革ひもを手放し、ぺたりと地面に座り込んでいるキングの飼い主が、鼻にしわを寄せた。「何かしら、この臭い?」彼女は真一に呼びかけてきた,coach 財布 人気。「この臭いのせいでキングがおかしくなっちゃったのかしら?」 だが真一は女の子に応えず、キングを見ていた。目が離せなくなっていた。たった今、キングが、ずたずたになったゴミ袋から引っぱり出したものから。 茶色の紙袋だった。キングはその端を噛んでいた。顎を動かし、また噛んだ。袋が破れた。中身がのぞいた。異臭が強くなった。思わず顔をしかめた真一は、キングの強い顎に噛みしめられ、紙袋から引っぱり出されたものの正体を、まともに目にした。 人間の手だった。肘《ひじ》から下。指先が真一の方を向いていた。こちらを指さし、差し招くかのように。訴えかけるかのように。 キングの飼い主が、早朝の空気を切り裂くような鋭い悲鳴をあげ始めた。棒立ちになったまま、真一は反射的に手をあげ、耳を覆った。これと同じような出来事が、ほんの一年ほど前にもあった。同じことがまた繰り返される[#「同じことがまた繰り返される」に傍点]。悲鳴と[#「悲鳴と」に傍点]、血と[#「血と」に傍点]、そしてただ呆然と佇むだけの俺と[#「そしてただ呆然と佇むだけの俺と」に傍点],クロエ 二つ折り財布。 無意識のうちに、真一はじりじりと後ずさりを始めていた,chloe 財布 人気。だが、差し招く手、死んだ腕から視線をはずすことはできなかった。その手の爪は、花壇に咲き乱れるコスモスの花弁に似た、淡い紫色に染められていた。[#改ページ] 2 電話が鳴り始めたとき、製造場の壁の時計を見あげると、午前九時をちょっと過ぎたところだった。今日の工程は、まだ全部終わっていない,オメガ 時計 人気。有馬《あり ま 》義男《よし お 》は、苛性《 か せい》ソーダの水槽の前に立ち、両腕を肘まで浸けて、木綿豆腐用の枠を洗っていた。「あれ、また桔梗亭《ききょうてい》からじゃないですか」 フライヤーのそばで木田《 き だ 》孝夫《たか お 》が振り返り、義男に向かって笑いかけた。「そろそろ来そうな頃合いですよ」 義男はゴム手袋を脱ぐと、傍らの水道パイプにひっかけ、事務所の方へと向かった。電話の呼び出しベルは、そのあいだも鳴り続けた。六回、七回、八回──義男が事務所と製造場の境目の引き戸のところまで行ったときに、十一回目が鳴った。「違うな、桔梗亭じゃないよ」と、振り向いて義男は言った。「あそこの旦那は、こんなに辛抱強くねえもんな」 それに応じて木田が何か言ってよこしたが、換気扇の音にまぎれてしまって、義男の耳には聞こえなかった。 狭い事務所のスペースの半分を占めている、ふたつの大豆の桶の脇をまわり、事務机のいちばん端に乗せてある電話機に手が届くところまで行く。受話器を取りあげ、こんな時間にかけてきてこれだけ根気よく鳴らすところを見ると、この電話はたぶん真智子《 ま ち こ 》からだろうと思いながら耳をあてると、思ったとおり、娘の声が聞こえてきた。「もしもし、お父さん? テレビ観た?」 おはようの挨拶も抜きに、いきなりそう言った。義男は反射的に、事務所の隣の座敷に目をやった,オメガ デ ヴィル。そこには十二インチの小さなテレビがあるけれど、むろん、今は消してある,coach 財布 激安。「観てないよ」と、義男は応じた。「何かあったのか」「テレビつけてみて。あ、でももう別のニュースになっちやってるかもしれない」 真智子は、うわずったような、かすれた声を出していた。たぶん泣いているのだろうと、義男は思った。「ニュースでなんかやってたのか」 こらえきれなくなったのか、真智子が嗚咽《 お えつ》するのが聞こえた。「泣いてちゃわからん
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無意識のうちに、真一はじりじりと後ずさりを始めていた
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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