。[#ここから5字下げ]3[#ここで字下げ終わり] 手前の居間には小田切鶴子の姿があった。奥の壁際に置かれた寝椅子にぐったり腰を下ろしていた彼女は、部屋に入ってきた私に気づくや、「あ……」と驚いたような声を洩らして立ち上がった。「ここは今、取り込んでおりまして」 そう云って寝室の扉の前に身を移し、両手を後ろに回してノブを押さえる。「この中には入らせない」という強い意思表示だった。「玄児さんに呼ばれたんです」 臆することなく足を進め、私は訴えた。「蛭山さんが殺された、一緒にここへ来てくれと」「玄児様に……」 |呟《つぶや》いて、鶴子は視線を宙に泳がせる。何やら表情が虚ろだった。ゆうべ私を〈西館〉の〈宴の間〉まで案内してくれた彼女が、立ち去り際に投げかけたあの、増悪とも羨望とも取れるような鋭い眼差しを思い出しながらも、私はさらに足を進め、彼女との距離を詰めた。「……さようでございますか」 やがて静かに|頷《うなず》いて、鶴子は私に背を向ける。そうして寝室の扉を細めに開き、「玄児様」 勘定を押し殺したような声で室内に呼びかけた。「玄児様。中也さまがおいでになりましたが」 間もなく扉の隙間から玄児が顔を覗かせた。鶴子は目を伏せ、黙って脇へ退く。「やあ、遅かったねえ」 玄児はにこりともせずに寝室から出てき、私の姿を上から下まで舐めるように見た,coach 財布 新作。「大丈夫かな、気分は」「あまり大丈夫でもないのですが」 答えて、私は右手で鳩尾を押さえてみせた。口の中にはまだ、さっき吐いた胃液の味が残っていた。玄児は「ふん」と低く鼻を鳴らし、「もっと気分が悪くなること請け合いだが。——どうする。入るかい」「それは……」 この奥で待ち受けている無惨な光景を想像して、私は鳩尾を押さえたまま言葉を詰まらせた。どうやら玄児は、誰かから事件発生の知らせを受けてここへ駆けつける、その前に私の部屋に立ち寄ったものらしいが。「中には、他にどなたか」「野口先生が。その他には死人だけだ」「…………」「無理強いはしないさ,oakley サングラス 激安。だが、できれば君にも関係者の一人として、直接現場を見ておいてもらった方がいいと思ってね」「関係者の一人?」「浦登家の関係者の一人として[#「浦登家の関係者の一人として」に傍点]、だ」 と云って、玄児は蒼白い頬にほんのかすかな笑み——私にはそう見えた——を|滲《にじ》ませる。何だろう、と私は思った。この笑みの意味は、いったい。「どうする、中也君」 重ねて訊かれて、私は迷った。 生命の抜け殻となり果てた蛭山丈男の身体が今、この向こうにはある。あの傴僂の玄関番の死体——しかも他殺死体——が、この扉の向こうに。 そんなものをわざわざ見たくなどない、と|怖気《おぞけ》をふるう私の心の中にはしかし、同時にまったく逆の思いが存在するのだった,chloe 財布 リリィ。単純にそれを——人の死体を「見てみたい」という思いが、この心のどこかに、確かに。「分りました,aokley サングラス 通販。それじゃあ——」 鳩尾から手を離し、私は答えた。「関係者の一人として、私も」 玄児は頷き、先に立って寝室の中に戻った。扉の脇に退いて目を伏せたままでいる鶴子に無言の一瞥をくれてから、私は友人のあとを追った。 居間と同じ八畳ばかりの広さの洋間。磨り硝子の上げ下げ窓が中央に設けられた正面奥の壁にヘッドボードを付けて、二台のベッドが並んでいる,coach 財布 ピンク。天井の電灯とは別に、ベッドの脇に置かれた小テーブルで、ナイトスタンドが柔らかな光を放っている。昨日重症の蛭山が寝かされていたのは、二台のベッドのうちの向かって右側だったが——。 その同じベッドの上で、だった。蛭山が死んでいたのは。「本当にこの人は、誰かに殺されて?」 恐る恐るベッドのそばへ歩み寄りながら、私は玄児に訊いた。皺だらけの白衣を着た野口医師が二台のベッドの間に立っており、「それは一目瞭然ですな」 玄児に代わって私の問いに答えた。「ご覧になれば、あなたにも分るでしょう」 ベッドに横たわった蛭山の身体には灰色の毛布が被せられている。足先から頭の先まで、すべてを隠して。医師が立つのとは反対側のベッドサイドに私が歩を進めたところで、玄児が毛布に手を伸ばし、顔に掛かっていた部分をそっと引き剥がした。 露わになった蛭山の顔を見て、私は思わず口許に手を当てて|呻《うめ》いた。 頭部を包帯でぐるぐる巻きにされた、あの玄関番の顔。もともと血色が悪くて土気色に見えたその顔が、今は汚い紫色に腫れ上がっている。ぎろりと完全に白眼を剥き出し、分厚い唇の端からはだらしなく舌を覗かせている。そして——。 その喉許——ずんぐりとした首のまわりに、何か茶色いものが、皮膚に喰い込むようにして巻きついているのだった,coach 財布 激安。「ズボンのベルトだよ」 と、玄児が云った。「蛭山さん自身が履いていたズボンのベルトで、このとおり首を絞められている。抵抗したような形跡はまるでない」「昨日ここで彼の手当てをした際、ズボンは脱がせてそっちに置いておいたのですが」
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その同じベッドの上で、だった
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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