。 腕と同じくらいの長さに見える〈伊507〉の艦影は、背景に横たわる島陰に半ば溶け込んでいたが、艦橋で豆粒ほどの大きさの人が蠢く様子は辛うじて判別できる。絹見艦長と先任将校たちだろう。機銃甲板に立つ見張り員は、当直の順番から行けば西村上水と岡一水。出港配備になっているから違うかもしれない。艦影を飾る凹凸のひとつひとつをそんなふうに納得し、最後に後部甲板に接合された膨らみに目を移した征人は、ずきりと痛む胸を堪えて〈ナーバル〉を直視した。 結局、バケツ一杯の水も渡せなかった。別離の言葉もちゃんと言えなかった。本当に、本当に、なにもしてやれなかった——。せめて目を逸らさず、見えなくなるまで見送るのが務めだと心得て、征人は〈ナーバル〉だけを見つめるようにした。だからその上部ハッチが開き、小さな人影が上半身を覗かせた時も、見過ごさずに目で追うことができた。 ハッチの縁に手をつき、艦尾方向を見遣った豆粒以下の人影は、他の人影より明らかにか細い。上体を伸び上がらせて一点を見つめる姿は、見送りの列に目を凝らしているのだとわかる。〈ナーバル〉から勝手に出ることは禁じられているのに、許可は取ったのか? そっちじゃない、ここだ。おれはここだ。ここでちゃんと見てるんだから——。熱くなった胸に喉を塞がれ、声にならない声で叫びながら、征人は桟橋の突端に向かって歩き出していた。 こっちを見ろ、おれはここにいる。奥底から噴出する衝動に突き上げられ、パウラ、と塞がった喉から搾り出そうとした刹那、「征人ぉ……」という低い声が足もとに絡みついた,ルイヴィトン 財布 モノグラム 三つ折り。 しわぶきともつかない呻き声だったので、名前を呼ばれたとすぐにはわからなかった。瞬時に体が凍りつき、無人のはずの桟橋を恐る恐る見回した征人は、カッターを舫った木材をぎっと軋ませ、白い塊がむっくり桟橋の下から這い出るのを見て、思わず背後に飛び退いた。 靴の踵が木板の継ぎ目に引っかかり、尻もちをついてしまった時には、白い塊もずるりと桟橋から滑り落ちていた。そのまま暗い海面に引きずり込まれかけて、咄嗟にのびた手のひらが辛うじて木板をつかむ,coach財布レディース。波|飛沫《しぶき》の微かな音に人の息遣いが混ざり、見知ったまる顔がもういちど桟橋の下から這い出してくるのを見た征人は、打ちつけた尻の痛みを忘れた。「清永……なにやってんだよ!?」 白い煙管服が闇の中でうごめき、清永はなんとか桟橋に這い上ろうとする。征人はその腕をつかみ、たっぷり水を吸った煙管服の分、さらに重くなった同期の巨体を桟橋の上に引き上げようとした。手のひらにぬるりとした感触が伝わり、清永が小さく呻く声が耳朶を打ったが、かまわずに全身に力を込める。清永の上体が桟橋の上に持ち上がり、その背中にこしらえた裂傷を闇の中に浮かび上がらせて、征人は危うく腕を離しそうになった。 衣服ごと引き裂かれたと見える背中の傷は、海水に濡れて薄い血の色を滲ませていた。ぼろぼろに裂けた袖の下にも無数の引っかき傷や切り傷があり、手のひらのぬるつきは出血だとわかった征人は、うつ伏せになった清永の顔を慌てて覗き込んだ。湿気でたわんだ木板に頬を押しつけた清永は、全身で息をするばかりで目を開けようともしない。酔っ払って、岩場から海に転落でもしたのか。考えても始まらず、征人はとりあえず五十メートルほど離れたバースに目を向けた。 見送りの列はほどけ、探照燈に照らされた人影は三々五々バースから離れつつある。まずは助けがいると判断して、征人は「待ってろ」と清永に言い置いて立ち上がった。ぴくりとも動かなかった清永がわずかに身じろぎし、「……行くな」と征人の足首をつかんだのは、その時だった,coach 財布 新作。「行ったら、殺される,クロエ 二つ折り財布。ここは謀反人《むほんにん》の巣窟《そうくつ》だ……」 切れ切れの息で搾り出し、清永は足首をつかむ腕の力を強くした,OAKLEY サングラス 店舗。切迫した目の光が闇を突き抜けて征人の網膜に刺さり、征人は棒立ちになった。「謀反人……?」「おれ、聞いちゃったんだ。〈伊507〉はアメリカに売られたんだ,オメガ デ ヴィル。浅倉って大佐が売ったんだ」 ひと息に喋ってから、自分自身の言葉にあらためて恐怖したかのように、清永は両手で征人の足をつかんだ。「味方の艦隊と合流するって話は嘘なんだ。会合場所には米艦隊が待ち受けてるんだって、隊司令が……」 征人の足を支えに上体を起こし、「嘘じゃねえ、本当だよ」と続けた清永は、半分涙声だった。想像外の言葉の数々に混乱し、飽和した頭がすっと冷たくなり、征人は自分でもわからずに漆黒《しっこく》の海に視線を移した。〈伊507〉の艦影は濃い闇の中に溶けきり、〈ナーバル〉の形も、その上にいるパウラの姿も、重厚な暗幕に閉ざされて完全に見えなくなっている。あの人、征人のことをジャップって言った——水溜まりに落ちた万年筆、奥底に嘲笑を秘めた土谷技術中佐の上目遣い、呆然と呟いた時のパウラの横顔。それらが順々に脳裏をよぎり、冷たい感触をより明瞭にすると、知っていた、わかっていたんだという思いが征人の頭を埋めた
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別離の言葉もちゃんと言えなかった
(1 post)-
Posted 12 years ago #
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